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Dialogue with Masayuki Ino
「Clothes That Create Conversation──会話が生まれる衣服」をモットーに、衣服をコミュニケーションのためのメディアとして捉えつつ、ダイバーシティやサステナビリティなど現代的な問題をユーモラスな表現に昇華するブランド「doublet」。テクノロジーを創造性を拡張する戦術的な道具へと転用するデザイナー、井野将之の発想やデザインプロセスについて明らかにする。パリコレクションで披露された、Algorithmic Coutureによる「フランケンシュタイン・シリーズ」の省察から、未来のデジタル技術への展望を問う。
doubletには、大事にされているモットーがあるとか。
doubletの服を着たら会話が生まれる、そんな状況を作りたいとデザインをしています。衣服はコミュニケーションのツールだと思っているんです。だから、ブランドのモットーも「Clothes That Create Conversation──会話が生まれる衣服」を掲げています。
かつて、衣服は「第二の皮膚」であると言った研究者もいました。身体から拡張し、コミュニケーションを媒介するメディアでもあると。
パンデミックの最中に、ファッションの動きが中断するなかで、これから服はできるだけつくらないようにしたほうが良いという言説が、サステナビリティの観点から広がりました。服が世の中に溢れるほどあるのは確かなので、これからはつくり続ける意味や意義が求められると感じました。
ヨーロッパをはじめ国際的な評価を集めるなかで、サステナビリティをはじめとした現代の問題にファッションの表現として切り込まれている印象があります。
他方で、衣服の背後にあるコンセプトや問題は大切なのですが、難しいとか、とっつきにくいと思われてしまう概念もあると思うんです。でも、デザインを工夫すれば会話のトリガーに変換できる。サステナビリティについては特にそうですね。実際に素材や製造の観点から対策はとりつつも、かっこいい、新しい、ワクワクするといった服をつくる時のプロセスの中で考えることが重要だと思うんです。
2024年秋冬のパリコレクションでは、Algorithmic Coutureによって生成したパターンをフランケンシュタインをモチーフとして表現し、ジャケットやデニムアイテムを共同制作させていただきました。
服にボルトが突き刺さっているのは、フランケンシュタインのイメージを表現することと同時に、話のきっかけをつくる意図もあったんですよ。「もしかしたら、フランケンシュタイン?」という疑問から会話が始まって、Algorithmic Coutureが生成したパターンの話に繋がったら良いなと。廃棄削減という背景にあるコンセプトを上手く伝えられると思ったんです。
アシンメトリーやパッチワークが目を引きます。
生地同士をパッチワークのように繋げる加工をみた時に、フランケンシュタインのツギハギを再現するのに使えるなと思ったんです。廃棄減少のパターンを強調させるのにも良いなと。専門の工場とステッチについて入念に詰めて、実現できました。
コレクション全体のテーマには、どのような意味を込めたのでしょうか。
回復を意味する「THE CURE」をテーマに構成しました。リカバリー素材をゾンビが着る、という逆説的なテーマが着想源だったのですが、その中に環境配慮やフランケンシュタインのイメージが加わっていきました。
多様で、ユーモラスな衣服が満載でしたね。
肩こりをほぐす磁気を服に埋め込んだり、酸化還元効果で免疫サポートが期待できる薬草を練り込んだ糸を使ったり。温泉のミネラル成分を入れ込んだ生地も使いましたね。これらの服を着て実際に健康になるかはともかく、回復というテーマをユーモラスに表現することを狙いました。
Algorithmic Coutureを応用した共同制作のプロセスでは、井野さんの「THE CURE」や「フランケンシュタイン」の強いイメージを前提としつつも、アルゴリズムが生成したパターン設計を積極的に取り入れていただきました。
人間のエゴが消えるデザインが面白いと思いました。人間が思いつかないようなあり得ないパターンが生成されることもあって、その無機質さが気持ちいいと思いますね。
気持ちいい、というのはどういう感覚なんでしょう。
Algorithmic Coutureを応用してみて、おもちゃを買ってもらった子供のような気分になったのを覚えています。わくわくしてアイデアがぶわっと膨らんでくる。私がふざけたことを、より増幅させる提案をどんどんお願いしたいなって思ってます。
技術を利便性のために活用する方向ももちろん重要ですが、アイデアの精度を向上させるための装置として転用する様がとても面白いと感じました。
デザインする行為にはどうしてもエゴが含まれてしまうから、テクノロジーが自分のエゴを消去してくれることで、純粋な形でアイデアを具現化できるのが面白いです。Algorithic Cotureを含め人工知能の発展に対しては、創作におけるピュアネスの純度を高める機能を期待したいと思います。
doubletの衣服を着る人たちがインターネット上で引用元を類推したり、ネタとしてSNSに投稿しているのをみて、とても興味深いと思っています。2024年秋冬コレクションでも、ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」に出てくる怪物を模した服なのでは?と話題になっていて。
あれはデモゴルゴンなのか、バイオハザードから引用したのか、ネットで話題にしてくれてる人たちがいて面白いな〜って思いながら見ています。でも、インスピレーション源はできるだけ明かさないようにしているんですよ。絶対正解言わないでおこうと思って(笑)
doubletのYouTubeにアップロードされるプロモーション映像も、どこかパロディを思わせる作りになっていますよね。
「COMPRESSED」というシリーズでは、特殊な圧力プレスを使って、水にぬらすとカップ麺の形からTシャツになる製品を作ったのですが、実際にやってみた動画をアップロードしてくれている人がいて嬉しかったですね。でも、ごめんね、着るまで時間かかって、なんて思いながら。
チャレンジ精神がある意欲的なファンダムに囲まれて、とても賑やかですね。
透明人間になれるジャージを芸人のテツandトモさんに着用してもらって、踊りと歌を披露してもらったことがあったんです。実際に真似をしてくれる人もたくさんいて。最初は受け入れられるかなと不安になることもあるんですが、SNSやネットを介して楽しんでくれるのを見て勇気になりますし、よし、明日からまた頑張ろう!と思いますね。
会話を生む衣服が、欧州のファッションの文化圏で評価されつつも、情報環境と連動した開かれたミームとして流通している様がとても軽やかで、楽しいなと感じます。
難しい概念だと思わせるよりも、着る人に楽しいと思ってもらう方がファッションらしい。伊坂幸太郎の『重力ピエロ』の言葉、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだよ」をいつも思い浮かべてます。難しいことをやっているけど、バカっぽいほど突き抜けて、服を着る人を喜ばせられるように。