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DIALOGUE WITH YUMI TOKUNAGA + TAKASHI SATAKE
ファッションとは愛にあふれ、刺激的で楽しく、自由であるべきだ———2009年の日本上陸以来、服を通じて豊かさと心地よさを伝え続けるRon Herman。地球規模の課題に対しても「あすに向けて愛をもって行動すること」を掲げ、持続可能な事業のあり方を目指す。ロンハーマン事業部デザイン生産部部長の徳永裕美と、Algorithmic Coutureを活用するプロジェクト「Center Striped Military Wear」を担当したRon Herman Californiaデザイナー佐竹卓に、愛ある未来のものづくりの展望を聞いた。
Ron Hermanといえば、カリフォルニアのライフスタイルを伝えることを大切にされていますよね。米国西海岸の魅力とはどのような点なのでしょうか。
徳永裕美(以下T): カリフォルニアに最初に訪れた時の感動を、日本でどのように表現できるか追求し続けています。創業者のロン・ハーマン曰くRon Hermanとは「Style of Life California」。カリフォルニアの生き方そのものであると。それまでファッションに対して自分たちが持っていたストイックでシビアな感覚とは異なり、Ron Hermanでは人生の豊かさとファッションが同一線上にある———カリフォルニアが醸す世界観にすごく感銘を受けました。
私たちもRon Hermanとの協業において、楽しさや豊かさを大切にした生き生きとしたものづくりを実感しました。
T: ファッションは自由で愛があって、そんな感覚を服として表現したいとつねに思っています。長く愛されるものづくりや愛のこもったお店での表現を含めて、服を通して人生の豊かさを感じてもらうことを大切にしています。
Ron Hermanが考える世界観の表現と、ベーシックで質の高いプロダクトのデザインは、どのように両立しているのでしょうか。
T: ロサンゼルスやカリフォルニアは、ゴールドラッシュや映画産業の発展とともに、移住者が夢を求めてやってきた土地です。豊かさにはいろいろなかたちがあって、お金を持って豊かな暮らしをするというのもあるし、お金はなくても好きなことをやり続けるという豊かさもある。企画と素材の他にない組み合わせや表現を突き詰めたもの、それがRon Hermanの製品がもつ最大の特徴だと思います。
日本の生活者に対してライフスタイルを提案するにあたり、特に力を入れている点はありますか。
佐竹卓(以下S):西海岸らしい大胆でラフで抜け感があることを一番に表現したいと思っています。それに、せっかく日本でデザイン企画をするのであれば、クオリティの高いプロダクトを世に出したいという思いで携わっています。
Ron Hermanは、2021年にサステナビリティビジョン「Love for Tomorrow」を公表しました。
T: 専門家の皆様からヨーロッパにおける新たな法規制について学ぶにつれ、ものづくりのルールが大きく変わったんだと強く思いました。Ron Hermanとしてアメリカ、ヨーロッパ、様々な国と関わっていくなかで、このまま自分たちが今いる場所に留まっていいのかと危機感を感じたのです。今では、サステナブルな素材やものづくりの仕方を試行錯誤するなかで、最終的には自分たちらしく取り組むことがポイントだと思っています。
「Love for Tomorrow」のビジョンのもと、具体的に注力しているエコデザインのプロジェクトはありますか。
T: 環境配慮素材への切り替えを中心に進めています。オーガニックコットンやリサイクルコットンだけでなく、紡績会社の落ち綿など、認証に頼らずに自分たちの目で素材を見て確かめることも大切です。
ファッション産業が前提とする複雑なサプライチェーンや製造プロセスの改革にあたって、重要だと考えていることはありますか。
T: これまで一緒にやってきたサプライヤー企業との信頼関係を継続しながら、「やさしいサプライチェーン」を築いていきたいと考えています。こちらから新たな素材を提案したり、逆に向こうから新しいつくり方の提案があったり、思いを共にする人が集まると発展が早いなと実感を持っています。
サステナブルファッションを取り巻く状況やルールの急激な変容に対して、テクノロジーができることはどのようなことでしょうか。
S: 日々悩みながら実践しています。ただ、デジタルを利用したコンピュテーショナルデザインの可能性が重要になってきているのではと感じました。服の設計全体を自動化するとか、人のイメージを超える迅速なアウトプットやシミュレーション、環境配慮に関わる法規制を管理など、総合的なアプローチに期待しています。
Synfluxも、経済産業省が実施している補助事業「みらいのファッション人材育成プログラム」で、ライフサイクルアセスメントやEUでの様々な法規制とコンピュテーショナルデザインの融合について議論をしていたところです。
S: 環境負荷の低減やエシカル、循環だったり、Synfluxの技術をはじめとしたデジタル技術の支援によってサステナビリティを必要条件に組み込むことで、製品として実装できる実現性を大きくできるのではないかと思っています。素材や製造手法、法規制など、包括的に考える巨大な知識の引き出しを持っていることが、これからのデザイナーの役割になるのではないかと考えています。コンピューターと一緒に仲良くやる、じゃないですけど(笑)そういった領域が今後、面白くなるんじゃないかな。
Synfluxとの協業においては、伝統的なミリタリーウェアの再構築が主題となりました。
S: 私が携わるRon Herman Californiaでは、メンズウェアの象徴的なアイテムであるミリタリーウェアを毎シーズン必ず企画しています。こうした普遍的なアイテムにAlgorithmic Coutureを組み合わせてデザインできればと考え、プロジェクトをスタートさせました。
実際にプロジェクトをご担当された立場として、特に重視された点があれば教えてください。
S: 廃棄削減というプロジェクトの最も重要なコンセプトのもと、自分の知識や経験の中では思いつかない、想定外のデザインの選択肢に気づけたことが収穫でした。デザインをする上ではアルゴリズムによるカットラインに対して意味を持たせることを目指しながら、今回は「ストリップ」───細い帯状のカッティングを象徴的に採用しています。
今後の共創の中で、Ron Hermanらしいサステナブルファッションの取り組みと、Algorithmic Coutureの共振をより深くしていきたいと考えています。
S: 意味のある新たなパターンを考案することと、廃棄を減らし上質な素材を大切にするということを両立させて、問題解決の糸口にしていきたいですね。そのために、職人や工場との関係性を再構築していきたいです。サステナビリティやゼロウェイストのマインドを共有して徐々に巻き込んでいければなと。
サステナブルファッションの実現は、個人や一社の努力だけではできない。それゆえに、ますます「やさしいサプライチェーン」が求められていると感じました。
T: 私たちは超大量生産とは言えない別の方法でものづくりを行なっているため、一つ一つのデザインに意味を持たせることを重視しています。今回、初の協業をやってみたからこそわかったことや気づいたことを活かして、Algorithmic Coutureという技術をどのように活用していくのか、今後のさらなる発展のために情報やデータを溜めていくプロセスが必要だと思っています。「やさしいサプライチェーン」の再構築のため、一歩一歩、少しでも前に進むために一緒に努力し続けるようなことができたら、と願っています。